2025年2月6日(木)から2月11日(火・祝)まで、東京都新宿区のR’sアートコートで、佐藤アツヒロ演出による絵本朗読LIVE『ビロードのうさぎ~モノクローム~』が上演される。公演前日にはゲネプロが行われ、キャストたちによる熱のこもった朗読が披露された。本作は、これまでの朗読劇のイメージを覆す新たな試みとして、多くの観客を魅了することだろう。
佐藤アツヒロが立ち上げた「PEaCE PROJECT」とは?
佐藤アツヒロは、音楽活動にとどまらず、演技や演出など幅広い分野で活躍してきた。そんな彼が新たに立ち上げたのが「PEaCE PROJECT」だ。このプロジェクトは、「作品を通して観客にポジティブで心温まる体験を届け、その時間が思い出に残るような舞台を目指す」という理念のもとに結成された。今後の展開にも期待が高まるこのプロジェクトの第一弾が、今回の“絵本朗読LIVE”である。
佐藤自身、これまで朗読劇が苦手だったという。しかし、「自分が楽しめる朗読劇を自分で作ってみたい」との思いから、今回初めての朗読劇を手掛けることに。記念すべき第一作には、100年以上前にイギリスの作家が書いた『ビロードのうさぎ』が選ばれた。少年とビロードでできたうさぎのぬいぐるみが織りなす、温かくも切ない物語が、現代の視点で新たに生まれ変わる。
脚本を手掛けたのは白川ユキ。佐藤の想いを受け取り、原作を現代の解釈で昇華させたことで、より深みのある物語へと仕上げられた。
朗読劇“モノクローム”が描く新たな世界観
朗読劇のサブタイトルである“モノクローム”には、さまざまな意味が込められている。佐藤にとって初めての朗読劇への挑戦であり、「PEaCE PROJECT」の初作品でもあること。さらに、物語が進むにつれて、少年との出会いによって単色だったうさぎの心が次第に色を持っていく様子を表現している。
一般的に「絵本の朗読劇」と聞くと、メルヘンチックでかわいらしい世界を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、本作ではそのイメージを大胆に覆す。劇場に足を踏み入れると、目の前に広がるのは“白と黒”のモノクロの世界。ステージの壁に広がる白い本棚、中央に突き出たランウェイ、そして生演奏のバンドが朗読を支える。
キャストたちの衣装も、絵本の世界とはかけ離れたファッショナブルなデザインで統一されている。佐藤が目指したのは「ファッションショーのような朗読劇」。この斬新なアプローチには、「無機質な空間の中で朗読を聞くことで、観客自身が自由に物語の色を想像し、楽しんでほしい」という彼の強いこだわりがある。
キャスト陣が紡ぐ『ビロードのうさぎ』の世界
本作の主役を務めるのは、佐藤と同じSTARTO ENTERTAINMENTに所属する田仲陽成と堀口由翔。彼らは「少年」と「うさぎ」の役を交代で演じる。ゲネプロでは、田仲が「うさぎ」、堀口が「少年」を担当し、それぞれの個性を活かした演技で物語を紡いだ。
物語の幕開けは、バンドが奏でるアグレッシブなサウンド。一般的な絵本の朗読劇とは一線を画す、独特な空気感が漂う。その中で、鈴木千佳子が「お手伝いさんのナナ」「妖精」「語り手」の三役を担当。ナナとして少年を優しく見守り、妖精としては幻想的な存在感を放つ。彼女の表現力によって、観客の頭の中に明確なビジョンが浮かび上がる。
田仲陽成が演じる「うさぎ」は、時に不安を抱えながらも、少年と共に過ごすことで次第に幸せを感じるキャラクター。田仲の表現力が、その繊細な感情の揺れを見事に描き出す。一方、堀口由翔が演じる「少年」は、うさぎとの出会いに純粋な喜びを感じる無垢な存在。二人は事務所に同日入所した仲でもあり、その抜群のコンビネーションが作品に温かみを与えている。
奥谷知弘は「ボート」と「本物のうさぎの兄弟」を演じ、ボートの心情の変化を巧みに表現。石橋弘毅は「木馬」と「本物のうさぎの兄弟」を担当し、穏やかな声で物語に深みを加える。そして、佐藤アツヒロ自身も「医師」として登場。出番は短いながらも、その確かな演技力で観客を引き込む。
映像演出と朗読が生み出す“心の中の絵本”
本作の特徴の一つが、映像演出だ。ステージ上の白い本棚はスクリーンの役割を果たし、常にカメラが役者たちの表情を捉えている。セリフを語る役者だけでなく、周囲のキャストの表情も映し出されることで、互いの感情の変化がリアルに伝わる。
朗読劇という枠にとらわれず、意図的に異なる要素を融合させた『ビロードのうさぎ~モノクローム~』。観客の頭の中で、それぞれの“心の中の絵本”が形作られる瞬間は、唯一無二の体験となるだろう。
6日間で12公演、それぞれ異なるキャストが織りなす物語
今回の公演は6日間で12回行われる。さらに、4公演ごとにキャストが変わるため、異なる組み合わせによる新たな感動が生まれる。どの回を観ても、異なる魅力が味わえる点も、本作の大きな特徴だ。
佐藤アツヒロが描く新たな朗読劇の世界。その挑戦とこだわりが詰まった『ビロードのうさぎ~モノクローム~』は、観る者の心に深く刻まれるに違いない。