令和の米騒動は終わらない? 高騰する価格と米業界の思惑
昨年夏に発生した“令和の米騒動”から半年以上が経過した。当初は一時的な現象と思われていたが、米の価格は一向に下がる気配を見せず、家庭の負担は依然として重いままだ。消費者の間では「なぜこんなに高いのか?」という疑問が渦巻いているが、では“米を売る側”の視点ではどう映っているのだろうか。街の米関係者に話を聞いた。
スーパーから米が消えた日——そして今も続く価格高騰
昨年の夏、全国的に米の流通不足が話題となると、瞬く間にスーパーの棚から米が姿を消した。その後、再入荷された米には購入制限が設けられたものの、価格の高騰は止まらなかった。米が市場に戻ってきた後も、消費者が実感するほどの値下げは行われず、むしろさらに高値を更新し続けている。
農林水産省のデータによれば、2024年6月時点で全国のスーパーにおける米の平均価格は5キロあたり2000〜2200円だった。しかし現在では3000円台後半に達し、わずか1年足らずでほぼ2倍の価格上昇となっている。この急騰は、多くの消費者にとって予想外の事態だった。
新米の流通で価格は戻るはずだったが…
“令和の米騒動”が勃発した際、多くの専門家は「新米が出回る10月頃には価格も安定するだろう」と見ていた。しかし、実際にはそうはならなかった。新米が市場に流通した後も、価格は下がるどころかさらに上昇を続けているのだ。
「新米が豊作だったという話もありますが、農家の方々からは『そうでもない』という声が聞こえてきます。私たち小売店の立場では、何が本当なのか正直わからないんです」と、都内の米穀店の店主は困惑した表情で語る。
「米を買いませんか?」——業者たちの焦り
価格上昇が続く中、政府も対策に乗り出した。2月7日、農林水産大臣の江藤拓氏は政府備蓄米の放出を急ぐ考えを表明。この動きに対し、米業界では早くも影響が出始めているという。
「報道が出た直後から、『米を買いませんか?』という営業電話が何件もかかってくるようになりました。これは、米を買いだめしていた業者が、政府の備蓄米が市場に出る前に在庫を売り切ろうと急いでいるのではないかと考えています」(米の仲介業者)
もしこの推測が正しければ、市場価格の上昇は人為的な要因も含まれている可能性がある。つまり、流通量の不足ではなく、特定の業者が買い占めを行い、市場をコントロールしているのではないかという疑念だ。
価格高騰で「くず米」がブランド米を超える異常事態
現在、市場では安価な米が買い占められ、価格が吊り上げられている。その影響で、もともと高級だったブランド米までもがさらに値上がりしている。特に異常なのは、かつては安価だった“くず米”の方が、普通の米よりも高値で取引されるという逆転現象が起きていることだ。
「正直、もうめちゃくちゃですよ」と、都内の米穀店の店主は苦笑する。
「長年付き合いのある業者に頼んでも『これ以上は売れない』と断られることが増えました。農家が豊作だったという話もあれば、そうでないという話もある。本当に何が正しいのか分からない状況です」
米価高騰は悪いことばかりではない?
一方で、価格上昇がもたらす“良い面”も指摘されている。
「農家の方々の収入が増えたのは良いことだと思います。もともと米の価格は生産コストに対して安すぎました。今回の価格が、むしろ本来あるべき水準なのかもしれません」(米穀店の店主)
米の価格は長年、低く抑えられていた。そのため、多くの農家が収益の厳しさに直面していたのも事実だ。今回の価格上昇によって、ようやく農家の努力が報われる形になったとも考えられる。しかし、その負担を消費者が背負う形になっているのもまた事実である。
その上、価格上昇分ほどは農家が儲かっていない、という事実も無視できない。
誰が利益を得ているのか?今後のコメの行方は?ということを考えると、これはコメだけの問題ではないのではないか、とも思えてしまう。
価格は今後も下がらない? 米業界の見解
では、今後米の価格は下がるのだろうか? 都内のスーパーの米売り場担当者に話を聞くと、慎重な意見が返ってきた。
「2、3年前と比べても、お米の全体量は実はそんなに変わっていないんです。でも、農協や国の政策で『相対取引価格』が決まっているので、価格が下がりにくい構造になっているんですよ。さらに、包装費や輸送費の上昇も影響していて、一つの解決策では価格は下がらないと思います」(都内スーパーの店員)
また、都内の米専門店の店主は、大企業の買い占めが影響しているのではないかと指摘する。
「農家には本当に米がないのですが、大手の加工業者や商社は米を保有しているはずです。こうした騒動が起こる前から、在庫を確保しておき、今まさに放出のタイミングを計っているのではないかと疑っています。これまで『米はない』と言っていた業者が、突然『実はありますよ』と売り始めるかもしれませんよ」(都内の米専門店の店主)
令和の米騒動が投げかける「適正価格」の問い
昨年夏から続く米の価格高騰。今回の騒動を通じて、**「米の適正な価格とは何か?」**という議論が改めて浮上している。
一方では、農家の経済状況が改善するきっかけとなったとの見方もある。しかし、消費者にとっては、食卓の負担が増え続ける現実がある。政府の備蓄米放出が価格の安定に寄与するのか、それとも市場の思惑に飲み込まれるのか——今後の動向が注目される。