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ドラマ「あんぱん」で「毒親」のように見える母とやなせたかしとの本当の関係は?

ドラマ「あんぱん」やなせたかしと母登美子の関係は? コラム

やなせたかしの母親登美子は毒親なのか?

ドラマ「あんぱん」を見ていると、やなせさんの母親登美子は、本当に自分勝手で崇を振り回しているように思ってしまいます。

幼い頃に養子に出されたとは言え、実の子どもの千尋からも、面と向かって「自分勝手な母親」と言われていますよね。

そんな母親を、どうしてやなせさんは恨まなかったのか?実際の関係はどうだったのか?を探ってみました。

アンパンマン誕生の裏側にあった、母との深い絆──やなせたかしと登美子の物語

幼少期の思い出が育てたヒーローの輪郭

現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』が、幅広い世代から注目を集めています。このドラマは、国民的キャラクター「アンパンマン」の生みの親である、やなせたかしさんの人生をもとにした作品です。中でも、母・登美子役を演じる松嶋菜々子さんの演技には、多くの視聴者が心を動かされています。

ドラマでは登美子が時に“毒親”のように描かれる場面もあり、SNSではその言動に批判的な意見も見られます。ただ、当時の社会や戦争の影響、そして未亡人としての厳しい現実を踏まえれば、彼女の言動も一面的には語れないものがあります。そうした背景があるからこそ、登美子はただの厳しい母ではなく、複雑で深みのある人物として描かれているのです。

脚本に込められた細やかな心配り

この物語を手がけた脚本家・中園ミホさんは、やなせさんと実際に文通していたというエピソードがあります。そのやり取りを通じて得た人物像をもとに、現実とフィクションの絶妙なバランスをとりながら、作品が丁寧に紡がれているのです。

ドラマ内では、やなせさんをモデルとした主人公・柳井嵩とのぶが幼なじみとして描かれるなど、一部に創作要素が見られます。しかしながら、親子の葛藤や感情の揺れ動きには、リアリティが込められています。

やなせさんは生涯、母に対して恨みを抱いたことがなかったと語っています。むしろ、母との複雑な関係が、後のアンパンマンのキャラクター形成に大きく影響を与えたとも言われているのです。厳しさの奥にあった母の愛情を、彼は感じ取っていたのでしょう。

ドラマ「あんぱん」やなせたかしと母登美子の関係は?

欠けた愛が生んだ自己犠牲のヒーロー

アンパンマンは、空を飛んで悪を倒すヒーローとは少し異なります。空腹の人々に自分の顔を差し出すという、まさに「与えること」に価値を置いた存在です。その根底には、幼い頃に母の愛を求めてやまなかったやなせさん自身の想いが、色濃くにじんでいるように思えます。

ドラマでは、母と息子の絆が絶えることなく描かれており、それがやなせさんの作品世界へと繋がっていく様子が丁寧に表現されています。松嶋菜々子さんの演技も相まって、登美子の複雑で奥深い心の揺れが、静かに胸を打ちます。

母親との別れのシーンで使われた「魔王鳥」アオバトの鳴き声とは?

もうひとつ視聴者の心をとらえて離さないのが、「アオバト」の存在です。ひときわ不穏なその鳴き声から「魔王鳥」と呼ばれるこの鳥は、登美子が息子の前から去っていくシーンで、印象的に使われています。

もともと演出側は蝉の声を検討していたそうですが、映像に映る彼岸花との調和や季節感を考慮し、最終的にアオバトが採用されました。この選択は、登美子の別れに一層の重みと余韻を与えています。

また、豆腐屋のラッパからアオバトの鳴き声へと滑らかに移る音の演出には、母の静かな退場が象徴されています。まるで心の奥で鳴り響く記憶のように、静かでいて強烈な印象を残すシーンです。

ドラマ「あんぱん」やなせたかしと母登美子の関係は?

愛し方に迷いながらも、決して手放さなかった母の想い

登美子は、子どもを心から愛していながらも、自分の人生に迷いを抱え続けた人物として描かれています。突然現れては周囲に波風を立て、また姿を消す──そんな行動の繰り返しが、視聴者に不安と同情を同時に呼び起こします。

実際のやなせさんの母もまた、戦後の混乱期に息子たちを置いて姿を消したという話が残っています。時代の厳しさ、そして女性としての生きにくさが、その背景にはあったのでしょう。

アオバトの鳴き声は、そんな複雑な母と子の感情を音として代弁してくれます。言葉では表しきれない情景や感情を、音がそっと補ってくれているようです。

NHKの『あんぱん』は、単なる伝記的作品ではありません。音、映像、演技といったさまざまな要素が絡み合いながら、人間の心の奥深くに迫る、奥行きあるドラマとして私たちの心に残ります。