子どもや平和をテーマに数々の名作を生み出した画家・いわさきちひろ。その彼女が1958年から1962年にかけて子ども向け雑誌「こどものせかい」に掲載した原画32点が発見されました。長らく行方不明だったこれらの原画が、一括で見つかるのはまさに奇跡といえる出来事。ちひろの作品を管理する美術館も「当時の画風を検証する上で非常に重要な発見」と評価しています。
子どもたちの世界を描いた32点の原画とは?
今回発見された原画の中には、「きょうも たのしい ようちえん」や「あめふり」といった作品が含まれています。「きょうも たのしい ようちえん」は、子どもたちが楽しそうに遊ぶ姿を花々とともに描いた作品。動きのあるポーズや奥行きを感じさせる構図が特徴で、ちひろならではの生き生きとした描写が光ります。
また、「あめふり」では、雨の中で絵の具を落とし、涙を浮かべる女の子の表情が印象的に描かれています。特筆すべきは、絵の枠外に「雨は少し太くする」などの指示が書かれていたこと。これは、当時の編集者によるものとみられ、ちひろの作品がどのように雑誌に掲載されていたのかを知る貴重な手がかりとなります。
淡い色彩のちひろ、しかし今回の原画は…?
いわさきちひろといえば、にじみやぼかしを活かした淡い色彩が特徴的。しかし、今回発見された原画には、輪郭や背景がはっきりと描かれているものが多いといいます。これは、彼女の画風の変遷や、雑誌という媒体に合わせた表現の違いを示している可能性があります。
ちひろ美術館の担当者も「これほどまとまった数の原画が一度に見つかることは奇跡に近く、当時の作品の特徴を改めて検証する上で非常に重要な発見」と語っています。長らく行方不明だった原画たちは、時を超えて新たな視点を提供してくれる貴重な資料となるでしょう。
どこにあった?失われた原画の発見秘話
今回の原画は、雑誌の出版社の倉庫から発見されました。発表後の原画の行方は長らくわからなくなっていましたが、昨年、出版社の倉庫内を整理していた際に偶然見つかったといいます。60年以上の時を経て、ようやく再び世に出ることになったこれらの原画。その価値は計り知れません。
ちひろの作品を間近で!貴重な原画展が開催へ
この奇跡的な発見を受け、ちひろ美術館(東京・長野県安曇野)では、発見された原画の一部を展示することが決定しました。展示は来月1日からスタートし、多くの来場者にとって貴重な体験となることが期待されています。
ちひろ美術館の松本猛常任顧問(ちひろの長男)は、「生き生きとした子どもたちのエネルギーや、絵に描かれた時代性を楽しんでほしい」とコメント。ちひろの原画を直接見られる貴重な機会を、ぜひ多くの人に楽しんでもらいたいと語りました。
時を超えてよみがえるちひろの世界
いわさきちひろが描いた子どもたちの姿は、時代を超えてなお多くの人々の心を打ちます。今回発見された原画は、彼女の画業を再評価する重要な資料となるでしょう。ちひろの柔らかくも力強い世界観に触れ、改めてその魅力を堪能してみてはいかがでしょうか?