世界的なオペラ歌手、マリア・カラスによる公開レッスンの様子を描いた舞台「マスタークラス」が3月14日に開幕する。主役のカラスを演じるのは、元宝塚歌劇団雪組トップスター・望海風斗。彼女はこれまで圧倒的な歌唱力を武器にしてきたが、本作ではあえてその歌を封印し、演技に全力を注ぐ挑戦に臨む。
伝説の歌姫・カラスの晩年に迫る舞台
「20世紀最大の歌姫」と称されたマリア・カラス。しかし、本作が描くのは彼女が現役のオペラ歌手として活躍していた時期ではなく、引退後の姿だ。舞台のモチーフとなっているのは、カラスが米ニューヨークのジュリアード音楽院で若きオペラ歌手たちを指導した公開授業である。
「カラスは厳しくも、自らの経験から滲み出る言葉を発している。彼女のせりふは胸に突き刺さるものばかりです。何より、一人芝居に近いほどカラスが延々と話し続ける。『これを演じるのは大変だ』と最初に思いました」と、望海は苦笑しながら振り返る。
伝統ある名作に挑むプレッシャー
「マスタークラス」は、ミュージカル「蜘蛛女のキス」などで知られるアメリカの劇作家、テレンス・マクナリーによる戯曲だ。1995年にアメリカで初演され、トニー賞最優秀作品賞などを受賞。その後、日本でも1996年と1999年に黒柳徹子主演で上演され、大きな話題を呼んだ。
今回26年ぶりの再演にあたり、望海は黒柳徹子に挨拶へ赴いたという。「歌を学ばれていた徹子さんにとって、カラスはまさに『神様』だったそうです。『カラスの血を自分の中に流すために、あらゆることをした』とおっしゃっていて、演じることがさらに怖くなりました」と、本作に取り組む難しさを明かした。
演技力を磨くための準備期間
その恐怖心を払拭するため、望海は本格的な稽古に入る前からカラスを学ぶ日々を送った。劇中にはイタリア語のせりふが多く登場するため、正しい発音を習得。また、歌うシーンはないものの、オペラの発声について専門家の指導を受けたという。
「ふと、宝塚音楽学校時代の指導を思い出すこともありました。当時も厳しいレッスンを受けてきましたが、今回はそれ以上に学ぶことが多かったです」と振り返る。
望海といえば、宝塚時代からその伸びやかな歌声が魅力だった。しかし、本作では「歌」に頼らず、演技だけで観客を惹きつける必要がある。「劇中に『聞いていればいいの。全部音楽の中に入っているんだから』というせりふがありますが、その通りで。今まで音楽に支えられてきました。でも、歌に頼らず、芝居を学びたいという思いがあったんです」と、挑戦の理由を語る。
新たな挑戦を続ける望海風斗
2023年にはミュージカル2作品での演技が評価され、読売演劇大賞の優秀女優賞を受賞。そして2024年には、新作「イザボー」や、「ムーラン・ルージュ!」「ネクスト・トゥ・ノーマル」の再演など、3本のミュージカルで多忙を極めた。
「宝塚を卒業してからは、自分が何者なのかわからなくなる時期もありました。でも、2023年は自分のペースをつかめたと感じた1年でした。これからもさまざまな作品や人との出会いを大切にし、視野を広げていきたいと思っています」と、未来への意欲を語る。
古巣・宝塚歌劇団への思い
7月に法人化が予定されている宝塚歌劇団についても、望海はエールを送る。
「宝塚には、宝塚にしかない良さがあります。ただ、時代的に必要のないものや、変えていかなければならないこともありますよね。でも、家族のようなつながりを大切にしながら、みんなで深く関わり合い、作品を作り上げていく劇団であってほしいと願っています」
歌を封印し、演技で挑む「マスタークラス」。カラスという偉大な存在に対峙しながら、望海風斗がどのようにその世界を創り上げていくのか。彼女の新たな挑戦に、注目が集まる。