「がんばった自分を褒めてほしい」「暴言を吐かれてつらい」。そんな思いを抱えながらも、従来のSNSでは否定的な反応を恐れて投稿できない。そんな声に応える形で誕生したのが、株式会社「祭」が開発したSNSアプリ「いつでもおかえり」(以下、いつおか)だ。リリースからわずか1年で1万ダウンロードを突破し、主に主婦層から高い支持を得ている。このアプリが目指すもの、そして開発者たちの思いとは。
“スタンプだけ”のコミュニケーションで安心感を実現
「いつおか」は、文章や画像を投稿できる点では他のSNSと変わらない。しかし、最大の特徴は“返信ができない”ことだ。ユーザー同士のコミュニケーションは、スタンプのやり取りに限定されている。拍手や力こぶといった絵文字に加え、「ご自愛」「うんうん」「すごい」「よしよし」といった優しい文言のスタンプが揃っている一方で、相手を否定するようなスタンプは存在しない。
開発者の清水舞子さんと野窪亮さんによると、当初は返信機能を備えた試作版を開発していた。しかし、議論が分かれるテーマでは「正義と正義のぶつかり合い」が発生し、結果として失敗に終わったという。その経験を経て、スタンプのみでの交流という現在の形が生まれた。
「SNS事業者の思いを反映したシステム次第で、秩序は作れると感じました」と清水さんは語る。返信ができないことで、否定される心配がなく、安心して思いを発信できる場が誕生したのだ。
“がんばっている”を確認する場所として支持される理由
「いつおか」のリリース後、利用者の7割が30~40代の主婦層であることが分かった。この結果について、清水さんは「主婦層の方々が、自分たちのがんばりを確認するために使っているのではないか」と分析する。
主婦たちは、子どもや家族のケアに追われる忙しい日々を送っている。終わりのないタスクに途方もなさを感じることも多いという。しかし、そんな日常の中で感じる悩みや不満は、友人にLINEで相談するほどでもなく、従来のSNSに投稿するには躊躇してしまう。そんなとき、否定される心配がなく、共感のスタンプで「お互いの頑張りを認め合える」いつおかが役立つのだ。
清水さんは、「社会の中でケア労働が軽んじられていると感じます。まずはユーザー間で、自分たちの価値を認め合ってほしい」と語る。実際、ワンオペで2人の子どもを育てる記者が利用した際も、落ち込んだ気持ちを投稿すると、すぐに「ぎゅ」「よしよし」「うんうん」というスタンプが集まり、心が少し軽くなったという。
「否定されない場所」を作りたかった理由
清水さんが「否定されないネット空間」を作りたいと考えた背景には、彼女自身の経験がある。過去にうつ病を患ったことや、サービス開発に携わったメンバーの中に障害のある人が多かったことが、その動機となった。
「いつおか」は、そんな人たちの「互助会」のような場を目指して作られた。否定や攻撃を恐れることなく、気軽に思いを発信できる場所を提供することで、心の負担を軽くする手助けをしたいという思いが込められている。
喜びや日常も投稿される多様性
当初、「いつおか」は悩みやつらい気持ちを吐露する場として想定されていた。しかし、リリース後の投稿内容は清水さんの予想を超えた。喜びや楽しい経験など、日々の何気ない気持ちも多く投稿されているという。
この多様性は、「いつおか」が単なる悩みの吐露の場にとどまらず、利用者の日常の一部として溶け込んでいることを示している。清水さんは、「今後は投稿内容から気持ちの浮き沈みを検知し、適切な支援につなげる仕組みを展開していきたい」と語る。
未来の展望――オンラインからオフラインへの支援も視野に
「いつおか」は、今後さらなる進化を遂げようとしている。清水さんは、投稿内容を基にした相談先の紹介や、オフラインでの居場所案内、障害のある人向けの就労支援施設の紹介などを検討しているという。単なるSNSの枠を超え、利用者の生活を支える包括的なプラットフォームへの成長を目指しているのだ。
「否定されないSNS」という新しい形を提示した「いつおか」。その挑戦は、インターネット空間における人と人とのつながり方に、新たな可能性を示している。
私も、SNSをしていますが、ほとんど既知の方々とのコミュニケーションに使っています。
それでも、時々否定的な意見を受けると、悲しくなったり、逆に「自分がそんなに悪いのか?」と思って落ち込んだりしてしまうんですよね。
「いつおか」は、投稿者を優しく包みこんでくれそうな場所なので、使ってみようと思いました。
これからは、こういったSNSが増えるといいですね!