ペットと迎えるお正月:愛犬用おせちが人気の理由
近年、ペットと一緒にお正月を楽しむ飼い主が増えています。特に注目されているのが、ペット用のおせち料理。1万円を超える高級品も登場し、ペット用品店や百貨店がこぞって販売を開始するなど、ペット市場の新たなトレンドとなっています。ペットの「家族化」が進む中、なぜこれほどまでに愛犬用おせちが人気を集めているのでしょうか。その背景には、飼い主の心理や社会の変化が見え隠れしています。
冷凍おせちから年越しそばまで、ペット用品店の充実ぶり
福岡市にあるペット用品店「ホームワイドペット&グリーン和白店」では、12月下旬になると冷凍おせちや年越しそば、さらにはクリスマスケーキまで、まるで食品スーパーのようなラインナップが並びます。同店の売れ筋商品は2000円から4000円の冷凍おせち。塩分が調整されており、ペットが安心して食べられる設計になっていますが、人間も食べられる商品が多いのが特徴です。
ペット用の食品が本格的に登場したのは約20年前。店の担当者によれば、ここ数年で売り上げは毎年1割ずつ伸びており、2023年は約30種類ものおせちが用意されました。「ペットと同じものを一緒に食べたい」という飼い主のニーズが、こうした商品の開発を後押ししています。
高級おせちが売れる理由:ペットも「家族」だから
全国展開するペット用品店「イオンペット」が展開する「ぺテモ」でも、2008年から犬や猫向けのおせちを発売。今年は和風・洋風の2種類を用意し、懐石料理のような1万円を超える商品が特に人気です。この冬の売り上げは前年同期比で2割増加するなど、ペット用おせちは確実に定着しつつあります。
百貨店もまた、愛犬家の要望に応える形で、通販ラインナップにペット向けおせちを加える動きが広がっています。こうした高級品が売れる背景には、ペットを家族の一員とみなす飼い主の増加があると言えるでしょう。
ペットの「家族化」とおせちの普及
ペット用おせちがここまで普及した背景には、ペットの「家族化」が挙げられます。2000年代以降、室内飼育が一般的になり、人とペットが共に過ごす時間が増えました。その結果、食事や旅行、イベントなどをペットと共有したいという飼い主が増加。おせち料理もその延長線上にあると考えられます。
東京農業大学の増田宏司教授(動物行動学)は、「犬と接する時間が増えるほど飼い主の愛情が深まり、ペットとの関係が家族に近いものとなる」と指摘します。かつては寝る場所や食事を分けるのが主流でしたが、20年ほど前から人と動物がシェアできる食品が増え、飼い主が罪悪感を抱かずにペットに与えられる環境が整ってきたのです。
ペットも喜ぶ「特別な日」の共有
動物に正月やクリスマスといった文化はありませんが、増田教授は「犬は飼い主と一緒に行動することを喜びとする動物」と述べています。普段とは違う特別な食べ物を与えたり、新しい場所へ連れて行ったりすることは、犬にとっても喜びとなるのです。また、犬は飼い主の感情を敏感に察知する能力があるため、おせちを与えて楽しむ飼い主の気持ちを理解し、共感している可能性もあるといいます。
注意点:人間用のおせちはNG
一方で、注意が必要なのは人間用のおせちをペットに与えることです。犬にとって危険なタマネギや過剰な塩分を含む食材が多いため、ペット用に開発された商品を選ぶことが重要です。また、肥満が多い日本の犬にとって、正月太りは健康リスクにもつながります。特に老犬には慎重に与える必要があると増田教授は警鐘を鳴らします。
ペットと共に楽しむ新しいお正月
ペット用おせちは、単なる贅沢品ではなく、飼い主とペットの絆を深める手段として注目されています。家族と同じように特別な時間を共有することで、ペットとの関係性がより豊かになるのです。ペットを家族の一員とみなす飼い主の増加が、こうした商品の人気を後押ししているのは間違いありません。
しかし、ペットの健康を守るためにも、適切な商品選びや与え方に配慮することが大切です。愛犬と一緒に迎えるお正月が、飼い主にとってもペットにとっても素晴らしい思い出となるよう願っています。