アニメーション映画『Flow』が、3月14日に公開された。この作品は、小さな国ラトビアで生まれた低予算アニメーションでありながら、その枠を超えた素晴らしい業績を達成したのだ。
第97回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞し、ハリウッドの大作を押しのけたこの作品は、世界中のアニメファンの注目を集めている。さらに、アヌシー国際アニメーション映画祭では審査員賞と観客賞を含む4冠を達成し、ゴールデングローブ賞でも『インサイド・ヘッド2』『野生の島のロズ』『モアナと伝説の海2』といったディズニーやピクサーの話題作を抑え、アニメーション映画賞を獲得した。
セリフなしの“流れ”に身を任せる旅
『Flow』の舞台は、洪水に飲み込まれつつある世界。その中で、一匹の猫が新たな旅に出る。セリフのない物語は、流れる映像と動物たちの仕草だけで語られるが、それがかえって観客の想像力を掻き立てる。
猫はただ流されるのではなく、ときに運命に逆らい、ときに流れに身を任せながら旅を続ける。その旅路にはさまざまな動物たちが登場し、猫と関わりながら、それぞれの成長を遂げていく。
監督の原点は“10代の頃の猫”
本作を手掛けたのは、ギンツ・ジルバロディス監督。彼は作品のインスピレーションについて、次のように語っている。
「10代の頃に飼っていた猫から影響を受け、猫が主人公の『Aqua』という短編を作りました。それはシンプルな手描きアニメでしたが、強い印象を残したため、数年後にそのアイデアを膨らませて長編を制作したいと思いました」
そして、この映画は監督自身の成長の物語でもあるという。
「以前は『Flow』の猫のように、一人で映画を作っていました。しかし、今回はチームで協力することを学びました」と語る彼の言葉からは、作品と自身の歩みが重なっていることが伝わってくる。
動物たちが教えてくれる“独立”と“協力”
本作には、猫とともに旅をする多様な動物たちが登場する。そのキャラクターたちについて、ジルバロディス監督は次のように語る。
「ボートに乗る犬は、私が育てた犬がモデルです。猫は独立心が強いけれど、次第に周囲を信頼し、協力する姿を示したいと思いました。一方、犬は自立することを学んでいきます。独立性と協力の両方が重要ですが、そのバランスを上手く表現できればと思いました」
さらに、キツネザルやヘビクイワシなどの動物たちにも、それぞれの目的がある。
「彼らは自分に合った仲間を求めています。これは多くの人に共感されるのではないでしょうか。そして、それぞれ方法は異なるものの、最終的に目標にたどり着きます」
本作には明確な悪役は存在しない。動物たちは敵ではなく、それぞれの思いを持って生きている。そして、観客は彼らに共感し、心のどこかで自分自身と重ねることができるのだ。
『Flow』のあらすじ――運命に抗う旅の果てに
世界が大洪水に飲み込まれそうになる中、一匹の猫は新たな旅立ちを決意する。流れ着いたボートには、さまざまな動物たちが乗り込んでいた。彼らは、予測不能な出来事や危険に直面しながらも、少しずつ友情を育んでいく。
猫は一人で生き抜こうとするが、やがて仲間と共に進むことの意味を知る。一方、仲間たちもそれぞれの成長を遂げ、ついには大きな決断を迫られることとなる。
果たして、彼らは運命を変えることができるのか?
そして、この冒険の先に待つものとは――?
“流れ”に身を任せながらも、自分の道を見つける物語
『Flow』は、静かながらも深く心に響く作品だ。セリフがなくとも、視覚的な表現だけで観客の心を揺さぶるその力は、アニメーションならではの魅力を存分に引き出している。
独立と協力、成長と変化――この物語は、人間の生き方にも通じるテーマを持つ。誰もが人生の中で迷い、時に流れに身を任せることもある。しかし、その中で自分なりの道を見つけ、進んでいくことが大切なのだ。
ラトビア発のアニメ『Flow』が、なぜ世界を魅了したのか。その答えは、映画館のスクリーンの中にある。
アニメ『Flow』を生んだラトビアについて
ラトビアは、北ヨーロッパのバルト海沿岸に位置する共和制国家。エストニア、リトアニアと共にバルト三国の一つとして知られており、その中央に位置している。
地理と自然
国土面積は約6.5万平方キロメートル(日本のおよそ6分の1)で、人口は約188万人。国土の約半分が森林で覆われており、約500kmに及ぶビーチラインや多くの湖と湿地帯を有する自然豊かな国。
歴史
13世紀初頭からドイツ騎士団の支配下に置かれ、その後リトアニア・ポーランド、スウェーデン、ロシアなどの支配を経験。1918年に独立を宣言したが、1940年にソ連に併合される。1991年に再び独立を回復し、2004年にNATOとEUに加盟、2014年にはユーロを導入。
首都リガ
首都リガは、バルト三国最大の都市で「バルト海の真珠」「バルトのパリ」とも呼ばれることも。中世の面影が残る旧市街は世界遺産に登録されており、13世紀からの装飾豊かな建築物が立ち並んでいる。
経済
ラトビアは、ロシアと西ヨーロッパを結ぶ重要な貿易拠点となっているので、リガとベンツピルスの2港は自由貿易港に指定され、CIS諸国と西欧諸国との中継貿易の中心地である。また、リガ国際空港はバルト三国最大のハブ空港として機能している。
主要産業には農業(畜産中心)、化学工業、木材加工業があり、木材および同加工品が主要輸出品。
文化と言語
公用語はラトビア語で、主な宗教はプロテスタント(ルター派)、カトリック、ロシア正教。豊かな自然と歴史的な建造物が調和した独特の文化を持つ国として、近年では観光地としても注目を集めているとのこと。