幻の吉原ガイドブック、熊本で発見!—蔦屋重三郎版『吉原細見』の魅力とは?
江戸時代に人気を博した吉原遊郭のガイドブック『吉原細見』。その中でも、特に希少とされる版元・蔦屋重三郎(通称:蔦重)の版が、熊本市中央区の舒文堂河島書店によって東京の入札会で落札された。
この貴重な蔦重版『吉原細見』について、河島一夫社長は「現存数が非常に少なく、古書店で見かけるのは珍しい」と語る。では、なぜこの書物が今なお注目されるのか? その歴史と魅力に迫る。
吉原生まれの版元・蔦屋重三郎とは?
蔦屋重三郎は1750年、吉原に生まれた。彼は1772年に吉原大門口で書店を開業。当初は他の版元が発行した『吉原細見』の情報を改訂する「改め」を担当していたが、1775年にはついに自身の手で『籬(まがき)の花』という細見を出版した。
この蔦重版は、それまでの細見よりもページあたりの情報量が多く、利便性に優れていたことから、次第に市場を席巻していった。そして彼は、単なる吉原案内人にとどまらず、喜多川歌麿や曲亭馬琴など才能ある作家を支援し、浮世絵や戯作の出版事業にも乗り出した。
現在、NHK大河ドラマ『べらぼう』の主人公として注目を集める蔦重。その活躍の足跡をたどる上でも、彼の出版した『吉原細見』は重要な資料といえる。
発見された『吉原細見』の詳細とは?
今回、舒文堂河島書店で扱われることとなった『吉原細見』は文化7年(1810年)発行のもの。蔦重は1797年に亡くなっているが、この版の奥付にはなお彼の名前が残されており、当時の名版元としての影響力の大きさを物語っている。さらに、蔦重のライバルとして知られる小泉忠五郎による「改め」の記載があるのも特徴だ。
本のサイズは縦17センチ、横12センチとコンパクト。軽量で持ち運びしやすく、吉原に繰り出す客にとって便利な一冊だったことがうかがえる。
さらに、内容も実に詳細で、吉原の地図、各妓楼に属する遊女の名前や階級、料金などが細かく記されている。こうした情報の豊富さが、蔦重版『吉原細見』の大きな魅力となっている。
舒文堂河島書店の河島社長も「刷りも良く、状態も良好」と絶賛しており、その価値の高さを証明している。販売価格は8万8千円。
『吉原細見』の役割と江戸文化への影響
『吉原細見』は、単なる遊郭ガイドにとどまらない。当時の江戸の娯楽文化を支える重要なツールだった。
江戸時代、吉原は単なる遊興の場ではなく、文化の発信地でもあった。美しい遊女たちの教養や才気に触れる場であり、文人や芸術家たちが交流を深める空間でもあったのだ。
そのため、『吉原細見』は吉原の現状を記録するだけでなく、当時の流行や文化、さらには経済状況を映し出す鏡のような役割も果たしていた。
特に蔦屋重三郎の版は、詳細な情報量と正確さ、そして美しい装丁で知られ、多くの人々に愛用された。彼の出版する細見は、吉原の最新情報を求める客や文化人にとって、欠かせない存在だったのだ。
蔦屋重三郎がいなければ、江戸文化はここまで発展しなかった?
舒文堂河島書店の河島社長は、「蔦重がいなければ、江戸文化はここまで魅力的ではなかったかもしれない」と語る。
確かに、彼の出版事業がなければ、喜多川歌麿の美人画も、曲亭馬琴の物語も、ここまで広く知られることはなかったかもしれない。彼は時代の先を読み、新しい文化を生み出す力を持っていた。
今回、熊本の古書店で発見された蔦重版『吉原細見』は、彼の業績を再評価する貴重な資料となるだろう。蔦重の残した文化的遺産に思いを馳せつつ、当時の江戸の空気を感じてみてはいかがだろうか。