心が疲れた時に訪れたい、癒しの古書店——『古書店ミチカケ 心晴れぬ日はいまを忘れてひとやすみ』の魅力
近年、漫画の映像化やドラマのコミカライズが増える中、漫画ファン必見の情報を発信する「ザテレビジョンマンガ部」が話題を集めています。今回は、「ダ・ヴィンチWeb」で連載され、2月26日に書籍化された『古書店ミチカケ 心晴れぬ日はいまを忘れてひとやすみ』(KADOKAWA)をご紹介。作者のかんさびさんが12月10日にX(旧Twitter)へ投稿した際には、2000を超える「いいね」と多くのコメントが寄せられました。本記事では、かんさびさんへのインタビューを通して、創作の背景やこだわりに迫ります。
現代社会に疲れた男性が訪れる、心を癒す不思議な古書店
——「またおいで」と迎えてくれる、本の世界の温かさ
古書店「ミチカケ」を営む店主・サクには、特別な力があります。それは「本の世界に遊びに行くこと」。彼はその力を気に入っていますが、完全にその世界に住むことはできず、いつか本の世界に留まりたいと願っています。
そんなサクが経営する「ミチカケ」に、ある晩、疲れ果てた様子の男性が訪れます。彼は日々の仕事に追われ、家に帰れば食事をして眠るだけの単調な毎日を過ごしていました。ふと手に取った一冊の絵本。それは幼い頃に読んだ懐かしいもので、ページをめくるうちに、いつの間にか彼は絵本の世界に入り込んでしまいます。
そこで彼を迎えたのは、すでに本の世界に入っていたサク。驚く男性に「夢だからリラックスしよう」と優しく語りかけます。やがて二人は、子どもの頃に思い描いた楽園のような世界の砂浜で寝転びます。次第に忘れていた記憶が甦り、彼の心は少しずつ癒されていくのです——。
この物語を読んだ人たちからは、「素敵な発想」「心が温まる」「疲れた現代人の憧れ」「私も本の中に入りたい…」といった共感の声が多く寄せられています。
「本の世界は、いつでも開かれている」——創作の背景にある思い
——現実逃避はネガティブではなく、心を休めるためのもの
かんさびさんは、本作の発想についてこう語ります。
「人々が本を読む理由のひとつには、現実逃避があると思います。でも、それは決してネガティブな意味ではなく、本の世界に没頭することで心を休め、活力を得て、再び現実に戻るためのものだと考えています。私自身も多くの本に励まされ、癒されてきました。その経験を振り返りながら、作品を作りました」
サクが営む古書店「ミチカケ」は、まさにそんな「ひとやすみの場所」。本の世界に入り込むというファンタジー要素を持ちながらも、その背景には「現実で生きるための力を、本が与えてくれる」という深いテーマが込められています。
「絶対的な悪」は登場しない——優しさを大切にした物語
——「異世界はいつでも帰れる場所」だからこそ、安心できる
本作のこだわりのひとつは、「意地悪な人」や「絶対的な悪」を登場させないこと。
「ファンタジーの世界では、『一度出ると二度と戻れない』という設定がよくありますが、私は『本の世界は、いつでも開かれている』と考えています。だから、ミチカケの物語でも、本の世界は扉のように存在し、好きな時に訪れることができる場所として描きました」
この考え方が、物語の温かさにつながっています。本の世界に入った人たちは、決して追い詰められることなく、心を癒し、また現実へと帰ることができるのです。
「違い」から生まれる気づきを大切に
——キャラクター同士の関係性が生む、優しい世界観
物語の中には、さまざまな価値観を持つ登場人物が登場しますが、彼らは決して対立するわけではありません。
「世の中には、考え方の違いによって生きづらさを感じる人が多いと思います。でも、本の世界では、『違い』からこそ気づきを得られる。だから、意地悪なキャラクターではなく、ただ異なる考えを持つ人々の関係を描きたかったんです」
特に印象的なのは、ロマンス小説のエピソードに登場する老夫婦の会話。このエピソードは、かんさびさんのご両親をモデルにしているそうです。
「父は難しい本を好み、母はハーレクイン小説を読んでいました。父は母の趣味を理解していなかったかもしれません。でも、父が亡くなった後、母が『こんなに泣いたことはない』と言っていたのを思い出します。言葉にしなくても深い絆で結ばれていたんだなと感じました」
本の世界を通じて、人と人のつながりの温かさを描き出しているのも、本作の魅力のひとつです。
「本の世界に入りたい」——作者が憧れる物語の世界
もし自分が「ミチカケ」の店主と同じ力を持っていたら、どんな物語の世界に行きたいか? という質問に対し、かんさびさんはこう答えています。
「たむらしげるさんの『ファンタスマゴリア』や『銀河鉄道の夜』のような、静かで幻想的な世界に入りたいですね。絵本の中の美しい世界を旅人として訪れてみたいです」
また、今後の目標についても、こう語っています。
「少しでも心を癒せる物語を作り続けたいです。次は、不思議な絵本のような物語を描いてみたいですね」
「読んでホッとできる物語を届けたい」——読者へのメッセージ
最後に、かんさびさんは読者へ向けてこうメッセージを送ります。
「私の作品が、読んだ方の心を少しでも癒せるものであれば嬉しいです。これからも、本を通じて感じた感動を皆さんに届けられるような作品を作り続けますので、応援していただけたら幸いです」
『古書店ミチカケ 心晴れぬ日はいまを忘れてひとやすみ』——疲れた心をそっと包み込む、優しい物語をぜひ手に取ってみてください。