アニメ制作の新たな可能性を切り拓く作品として注目を集める『ツインズひなひま』。本作はアニメイト系フロンティアワークスとKaKa Creationが共同制作し、2025年3月29日深夜3時38分からMBSにて放送開始されることが決定した。主演は平塚紗依と伊駒ゆりえが務め、双子の女子高生がSNSで人気を博す過程で異世界へと迷い込む物語が展開される。
しかし、本作の最大の特徴はストーリーだけではない。「生成AI」を全面的に活用した映像制作が行われており、日本の地上波テレビアニメとしては初の試みとなる。この大胆な挑戦が、アニメ業界にどのような影響を与えるのか、詳しく見ていこう。
AI技術が支えるアニメ制作の新時代
公式によると、本作は「AI技術を補助ツールとして活用する」という理念に基づいて制作されている。AIはあくまでクリエイターの作業を支援する立場にあり、最終的な品質は人間のスタッフが担保する仕組みだ。いわゆる「サポーティブAI」という概念が導入されており、AIがアニメーターを補助することで効率的な制作を実現している。
制作チームには、『ラブライブ！』シリーズで知られる横田拓己や、AI技術の専門家が参加しており、経済産業省のAIガイドラインに準拠した著作権処理がなされている。また、この取り組みは新潟国際アニメーション映画祭でのプレミア上映も予定されており、アニメ業界にとって新たな一歩となる可能性を秘めている。
賛否が分かれるAI活用の是非
放送開始の発表後、SNS上ではAI活用に対する賛否が分かれた。AI推進派は「労働環境の改善につながる」「40年以上変わらなかった制作プロセスを刷新する」と期待を寄せており、特に若手クリエイターの間では、AIによる作業軽減への関心が高まっている。
公式の見解としては、AI活用の意義を以下のように説明している。
- アニメ業界の人材不足や長時間労働の改善を目指す
- 手書きやCGでは実現困難な新たな表現を可能にする
一方で、AIに対して懸念を抱く声も少なくない。特に「倫理面」や「権利面」に関する問題が指摘され、AIを導入しても制作環境の根本的な改善には至らないのではないかという批判も見られる。また、公開されたPV映像に対する意見もさまざまで、AIによる「動画」のクオリティが議論の的となっている。
AI活用の実態とは？サポーティブAIの定義
AIの具体的な活用範囲については、背景作画や3Dモデリングの一部に限られているとされている。しかし、「AI生成コンテンツの著作権が曖昧である」という指摘もあり、AIをどのように活用し、どの程度人間の手を加えるかが今後の焦点となる。
制作側は以下のように説明している。
「本作は従来のアニメ制作に使用されるAdobe社製品やCelsys社製品に加え、AI技術を用いて制作されています。作品本編は全カットAIによる支援で負担軽減が行われ、最終的には人の手で加筆修正が行われることで品質が保たれています。」
つまり、AIが単独で作品を生み出すのではなく、人間のクリエイターが最終的な仕上げを行うことで完成度を高めるという方式が取られている。
アニメ業界のベテラン・安彦良和が語るAIの可能性
アニメーション監督であり漫画家でもある安彦良和氏も、本作のAI活用について意見を述べている。彼は、アニメ業界の人手不足を補う手段としてAIを活用することに一定の理解を示しつつも、課題もあると語った。
「AIを利用したテスト動画を見ていると、言いたいこともあるけれど…人手不足の中で、低いクオリティで情けないものが作られている現状を考えると、AIがその質を向上させてくれる可能性は十分に期待できると思うよ。」
また、アニメ制作の具体的な工程において、AIの役割が大きくなる可能性についても触れた。
「例えば中割りをやってもらえれば、どんどんやってもらったらいいと思う。その間に作り手は演技の勉強をしておけばいい。アニメーションの基本は『流れ』なので。中割りは機械的な動きだから、手伝ってもらいたいね。」
安彦氏は、漫画制作の面でもAIが一定の役割を果たせる可能性があると述べている。例えば、背景の作画やベタ塗りなどの単純作業をAIに任せることで、作家はより創造的な部分に集中できるようになるという考えだ。
AIとアニメ制作の未来はどうなるのか？
『ツインズひなひま』の試みは、アニメ業界におけるAI活用の新たな一歩となるかもしれない。AIを導入することで制作の効率化が期待される一方で、クリエイティブな作業とAIの関係性をどのように調整するかが課題となる。
安彦良和氏の意見にもあるように、AIはあくまでツールの一つであり、クリエイターがその使い方を工夫することで、より良い作品を生み出す可能性がある。今後のアニメ業界では、AIと人間の共同作業がどのように発展していくのかが注目されるだろう。
『ツインズひなひま』がどのような評価を受けるのか、そしてアニメ制作におけるAIの未来がどうなるのか――放送開始後の反響が待たれる。
