備蓄米21万トンを市場に放出! それでも続く「コメ不足」と「大量廃棄」の矛盾
農林水産省は2月14日、21万トンもの備蓄米を市場に放出すると発表しました。これは、茶碗にすると約32億杯分に相当し、コメの価格上昇や供給不足への対応策とされています。しかし、この話題が注目を集める一方で、見過ごせない事実があります。それは、日本では毎日大量のコメが廃棄されているということです。
スーパーマーケットでは「精米から1ヶ月」を過ぎると廃棄される現実
日本のスーパーマーケットでは、精米から1ヶ月以上経過したコメは廃棄されるというルールがあります。これは「鮮度」を重視するための基準とされていますが、本当に必要なルールなのでしょうか? 例えば、11月1日に精米されたコメは、12月1日には棚から下ろされ、処分されてしまうのが一般的です。しかし、精米から1ヶ月が経過したからといって、すぐに味が落ちたり、品質が悪くなったりするわけではありません。
もちろん、廃棄されるコメのすべてがゴミになるわけではなく、一部は寄付されたり、外食産業へ回されたり、納入業者へ返品されたりすることもあります。しかし、それでも最終的に処分される量は決して少なくありません。さらに、外食産業ではコメの産地表示が義務付けられているにもかかわらず、守られていないケースもあるのが現状です。
毎日8トンの米飯が廃棄されているという衝撃の事実
食品ロスの実態を深掘りすると、さらに驚くべきデータが出てきます。食品廃棄物処理業者に運ばれる食品ロスのうち、約2割は米飯に関係するものだと言われています。その量はなんと、1日あたり約8トンにも及びます。
これを茶碗1杯(150g)に換算すると、5万3333杯分にもなります。これは、一般家庭で食べきれずに捨てる量とは比べものにならない規模です。特に外食産業や食品加工の現場では、システム上どうしても一定量の廃棄が発生してしまうのが課題となっています。
例えば、自治体の焼却炉で燃やされる廃棄物の約4割が「食品」だとされています。この食品ロスによる経済的損失は、年間で約2兆円にもなると言われており、社会全体で見ても大きな負担となっています。つまり、一方では「コメが足りない」と言われる一方で、膨大な量のコメが捨てられ、しかもその処理にかかるコストまでが重くのしかかっているのです。
食品業界の「欠品禁止ルール」が生む無駄
食品業界には、小売業からの「欠品禁止ルール」というものが存在します。これは、スーパーやコンビニの棚から商品がなくならないようにするための仕組みですが、結果的に食品ロスを増やす要因になっています。
例えば、節分の日には、大手コンビニの加盟店で恵方巻が大量に売れ残ることが問題になっています。ある店舗では、夜11時時点で70本近くが売れ残っていたという例もあります。これは、売り切れることで「欠品」とならないよう、店舗側が多めに発注することが原因です。しかし、売れ残った恵方巻はそのまま廃棄されるケースがほとんどです。
また、食品加工の現場では「必要以上にコメを炊かざるを得ない」という事情もあります。ある米飯加工会社では、少量のご飯を作る場合でも、製造ラインを動かすために最低10キロ以上の米飯を炊く必要があるそうです。その結果、余った分はそのまま廃棄されてしまいます。
本当に必要なのは「備蓄米の放出」ではなく「無駄を減らす仕組み」
今回、農林水産省が備蓄米を市場に放出することを決めましたが、単に供給量を増やすだけでは、根本的な問題は解決しません。大切なのは、「すでにある資源をどのように有効活用するか」を考えることではないでしょうか。
例えば、以下のような取り組みが求められます。
- スーパーの「精米1ヶ月ルール」の見直し
- 食品業界全体での食品ロス削減への取り組み
- 企業や消費者への啓発活動の強化
- 過剰発注や欠品禁止ルールの緩和
私たちが毎日食べているコメは、日本の農家が心を込めて育てた貴重な食糧です。それが消費者の口に入ることなく廃棄されている現実を、今一度考えるべきではないでしょうか。コメ不足が問題視される今こそ、「新たに生産する」のではなく、「今あるものを無駄にしない」取り組みが求められています。